行政書士という仕事を聞いたことはあってもどんな仕事をしているのか分からないという人も多いと思います。
この、行政書士の知名度に反して何をしているのか分からない理由として、よく言われるのが『できる仕事の範囲が広すぎて説明が難しい』ということが原因だとよく言われています。
そこで、今回は行政書士がどのような仕事をしているのかについて解説していきます。
目次
行政書士の仕事とは?
行政書士の仕事は書類の代理作成が主な業務であり、行政書士法にて定めている範囲の書類を依頼者に代わって作成することができます。
この行政書士法で定められている範囲は独占業務であるため行政書士のみが仕事として引き受けることができます。
では、法律で定められている範囲とはどのようなものでしょうか。
具体的には以下のようになっています。
行政書士法に規定する行政書士ができる業務
①官公署に提出する書類の作成及び官公署への提出
②権利義務又は事実証明に関する書類の作成
③書類作成の業務に付随する相談業務
参考サイト:e-GOV 行政書士法
これだけ見てもいまいちどのような書類が作成できるか分からないと思うため、具体例をあげると下記のようになります。
※官公庁とは国や地方自治体の役所のことを言います。例:市役所・警察署・消防署等
書類の具体例:飲食店の開業の許可申請、建設業の許可申請、車庫証明等
②権利義務又は事実証明に関する書類
例:契約書、離婚協議書、遺産分割協議書、内容証明等
官公署に提出できる書類は細かいものまで入れると2万種類以上あるとも言われています。
後程詳しく解説しますが、他の法令で制限されている書類以外の書類は行政書士ならば全て作成できるため、これが行政書士の仕事の幅が広いと言われる理由ですね。
行政書士の仕事としてできる範囲
世の中の書類の多くが官公署に提出書類又は権利義務や事実証明に関する書類に該当するため、行政書士になればこの世の全ての書類を代理で作成できるような気がしますが、残念ながらそうはなりません。
行政書士法の中に『他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない』という文言があります。
この他の法律とは例えば税理士法や司法書士法のことを指します。
例えば確定申告に関する書類は官公署である税務署に提出する書類になるため、行政書士でも作成できそうですが、税務に関する書類は税理士法の中で税理士のみが作成できるとされているため行政書士は作成できません。
同じように司法書士であれば法務局や裁判所に提出する書類の作成の代理作成ができる旨が司法書士法で定められているため、登記の書類などは行政書士は作成できません。
上記のように他の士業の法律で定められている業務は行政書士は業務として受けることができないため、このような問題は業際問題として行政書士はよく頭を悩ませます。
そのため、行政書士の多くは他の資格を取得してダブルライセンスとして活躍している方が多いです。
行政書士の仕事
ここまでは行政書士ができる業務の一般論を解説しました。
次に行政書士の仕事は具体的にどのような業務を行うのかについて説明していきます。
もちろん、上記でも書いた通り行政書士の仕事は数えきれない程あるため、行政書士の仕事として有名な仕事を解説致します。
遺言の作成
行政書士と言えば遺言と言っても過言ではない程、行政書士にとってはポピュラーな業務です。
最近は終活ブームもあり、遺言に興味を抱く方も増えています。
では遺言とはどのように作るかですが、遺言には2種類あり公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
(秘密証書遺言というのもありますが、実務的にほとんど使う機会がないため割愛させて頂きます)
この二つの違いは、公正証書遺言の場合は用意した遺言の原案を公証役場にて公証人が作成して遺言を作成し公正証書にて残すことができ、自筆証書遺言の場合は自分で作成して完成させるという違いがあります。
具体的な違いは下記の表の通りになります。
種類 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
遺言を書く人 | 本人 | 公証人 |
作成費用 | 遺言に使う用紙程度のためほとんどなし | 対象となる財産に応じた公証役場への手数料 |
作成方法 | 遺言者が ①全文 ②日付 ③氏名 を自書し押印する |
証人二人以上立会いの下
①遺言者が遺言内容を承認に口授し公証人が筆記 |
証人要否 | 不要 | 2人必要(※相続人・直系血族の方は証人になれない) |
印鑑 | 認印でも可 | ・遺言者は実印 ・証人は認印でも可 |
遺言書の保管 | 遺言者の保管 ※遺言書の保管制度を活用することで法務局に預けることも可能 |
原本は公証役場で保管
遺言者には正本と謄本が交付される |
家庭裁判所の検認 | 必要 | 不要 |
どちらを選ぶかはお客様の希望に沿う形にはなります。
公正証書の方が公的に遺言の作成ができるため、遺言のトラブルとしてよくある改ざんや紛失のリスクがなくなるため安心ではありますが、公証人への手数料など自筆証書遺言に比べて作成費用が高額になるなどのデメリットもあります。
自筆証書遺言の場合、性質上確認するのが自分一人になるのに対して公正証書遺言は公証人の確認も行われるため、気持ち的には公正証書遺言を選んでいただいたほうが安心できるというのはよく聞く話ですね。
また、遺言の作成は以下のような方にお勧めです。
結婚はしているけれど子どもがいない場合などは相続人となるのが配偶者だけでなく、兄妹姉妹や甥や姪まで対象となることもあり手続きが複雑になります。
②事業などを営んでいる
例えば会社などを営んでいる場合、相続発生して株式が分散してしまうと会社の意思決定がスムーズにいかなくなり、気づきあげて来た会社が一気に崩れてしまう可能性もあるため、事業の承継をどのようにするかを遺言に残したり、農業の場合土地を分割できないので、相続で問題が発生した場合非常に解決しにくくなります。
③相続人と連絡がとれない
相続人が全員揃わないと遺産分割協議ができず、不在者の財産管理人の選任や場合によっては失踪宣告手続きが必要となり、費用と時間がかかります。
④相続人以外に財産を与えたい・寄付したい。
生前お世話になった人や社会貢献のため団体に寄付したい場合は遺言書にどのようにしたいかを記載する必要があります。
建設業の許可申請
建設業者は建設業を行う場合に500万円以上の工事を請け負う時は建設業の許可を受ける必要があります。
小規模な建設業者や一人親方の場合は低額の工事の下請けのみを専門にしている場合など許可が必ずしも必要ない場合もありますが、許可を得ることで国から許可を受けた事業所として信頼を得ることや、申請から許可まで数か月はかかるため、将来に備えて元請から許可を得るように言われるケースなども多いため、建設業を営むうえで建設業の許可は幅広く需要があります。
しかし、建設業の許可のための申請書類の作成には非常に膨大な手間がかかるため、本業の建設業と並行して申請書類を作成するのが困難な業者も多く、行政書士へ依頼する事業者も多いです。
そのため、建設業を専門として引き受ける行政書士も多くいます。
建設業の許可申請の流れは下記の図のようになります。
また、建設業の許可を受けるためには以下の5つの要件が必要と言われています。
②営業所に常勤の技術者を置くこと
③請負契約に関して誠実性を有していること
④請負契約を履行するため、財産的基盤を有する事
⑤欠格要件に該当しないこと。
建設業の許可申請についての詳細は建設業の許可申請を解説を参考にしてください。
また、建設業者が公共工事と呼ばれる、国や都道府県から発注される工事を引き受けるためには建設業の許可に加えて経営事項審査を受けなければなりません。
そのため、建設業の許可と併せて経営事項審査の依頼も引き受ける場合もあります、
飲食店
飲食店を営む場合は、保健所に対して飲食店の許可申請を行い許可を受ける必要があります。
飲食店の場合仕事の依頼数も多く、店舗ごとに許可申請が必要なため2店舗目を出す場合などは、同一の依頼者から引き続き依頼が来る場合もあるため、こちらも許認可申請のジャンルでは人気の高い分野です。
飲食店の許可までの流れは下記の図のようになります。
飲食店の許可について詳しく知りたい方は飲食店の許可を取る方法をご覧ください。
障がい福祉事業関係
障がい福祉事業を開業したい場合は指定申請を行い、国からの指定を受ける必要があります。
障がい福祉事業の施設は近年増加傾向にあり、種類も『放課後等デイサービス』『就労継続支援A型・B型』『就労移行支援事業』『グループホーム』等と多いため、行政書士への各種指定申請書類の依頼も増えています。
障がい福祉事業の1つである放課後等デイサービスを例にあげて、指定申請を受けるまでの流れは以下の図のようになります。
放課後等デイサービスの指定申請の方法については放課後等デイサービスの指定申請を解説をご覧ください。
また、本業の行政書士でも意外と引っかかりやすい落とし穴ですが、障がい福祉施設の設立ができるならば福祉施設の申請は全部できるんだと思うかもしれません。
しかし、社会保険労務士法にて社労士の独占業務に介護保険法が独占業務である旨の記載があります。
そのため、児童福祉法などに規定している放課後等デイサービスとは違い、高齢者を対象としたデイサービスなどは介護保険法に規定されているため、業務としては社労士が引き受けることになります。
しかし、一方で介護タクシーは道路運送法に規定されているため受任できます。
似たような業務でも規定する法律次第でできたりできなかったりと、少し違和感があるかもしれませんが、他の独占業務の侵害は違法行為として処罰の対象にもなるため、受任の前にはほかの人からのアドバイスだけを真に受けず必ず根拠法令を確認するようにしましょう。
車庫証明
個人が車を購入する際などは必ず必要になる手続きのため、幅広い方から需要のある業務です。
ただし、正直そこまで難易度が高い手続きではないため、自分で調べて申請まで行ってしまう人も多いです。
業務の絶対数が多いため行政書士の業務として人気も高く、車の販売業者と提携して車の購入があった場合に車庫証明を引き受ける行政書士も多かったようです。
しかし最近ではOSS(自動車保有関係のワンストップサービス)が実装され、行政書士の独占業務ではなくなるなど車庫証明の仕事も激動の時代になりつつあるようです。
それでも車庫証明の需要がなくなることはなく、今後も行政書士の人気の業務として存在していくことは間違いないため、行政書士として活動するなら一度は勉強しておきたい分野ですね。
車庫証明の申請について詳しく知りたい方は車庫証明の書き方・取り方を解説をご覧ください。
後見人
認知症などにより判断能力がなくなってしまった方の後見人として行政書士が就任するというのはよく聞く話ですね。
しかし、実は行政書士は後見人になることができません。
なぜなら司法書士や弁護士は各法律の中で後見人として業務を行うことができるのが明記されているのに対して行政書士は後見人に対して特に名言がないためです。
そのため行政書士と成年後見の業務は無関係に見えますが、行政書士会にも成年後見に関するコスモスと言う団体が存在するなど、決して行政書士と無関係とも言えないのが成年後見です。
成年後見を引き受けると、以下のような業務を行うことができます。
1 不動産など重要な財産の管理や処分
2 預貯金口座、証券会社口座の管理
3 保険契約に関する管理及び手続
4 日常生活に必要な契約全般の代理
5 介護・医療等にかかわる契約代理(医療契約、入院契約、介護契約、施設入所契約など)
6 居住等にかかる契約代理(賃貸借契約、売買契約、リフォーム請負契約など)
7 要介護認定の申請
8 権利証・実印・銀行員、通帳などの重要資料の保管
9 税務申告の代理
10 相続手続きの代理